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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1572号・昭39年(ワ)4850号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、そこで本訴請求につき検討するに、まず原告が本件建物を津村清から買受けた旨の主張につき判断するに、本件建物がもと津村清の所有であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>を考え合わせると、服部綾子は代理人である夫服部義夫を通じ、津村清から昭和二八年一一月一二日頃本件建物を代金七〇万円で買受ける旨の売買予約を締結し、その後原告は服部綾子から右売買予約上の地位を譲受け、同二九年九月一七日津村に対し右売買予約を完結する旨の意思表示をなし本件建物を取得したことが認められる。<証拠>によれば、津村は服部に金四五万円を借受けただけで、本件建物を服部綾子に売渡す予約をしたものでないとの証拠も存するが、前記各証拠と照らし合わせるとにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠は存しない。

三、次に被告も本件建物の所有権を取得し本件建物について利害関係を取得したと主張するのでこの点につき検討するに、本件建物について服部綾子が大阪法務局今宮出張所昭和二八年一一月一六日受付第一三、五四二号をもつて津村との間の同日付売買予約を原因とする所有権移転登記請求権保全仮登記を了し、原告がその主張に係る右仮登記の移転付記登記および所有権移転本登記を経由していること並びに被告が同法務局同出張所昭和二九年三月二二日受付第五、五三五号をもつて同年同月一五日付売買を原因とする所有権移転登記を了していることは当事者間に争いがない。そして服部綾子が了した右仮登記は前認定の売買予約に基づくものでつて、この地位を譲受けこれに基づきなされた原告名義の仮登記の移転付記登記は、不動産登記法七条一項の規定により服部名義の仮登記と同一の順位、効力を有しているから、この仮登記に基づいてなされた原告の所有権移転本登記は、同法同条二項所定の仮登記の順位保全の効力により被告の所有権移転登記に優先し、その結果仮に被告が津村より建物を取得したとしても原告に対抗することはできないこととなる。後記認定の如く被告は津村より本件建物を買取つた小杉隆より贈与を受け本件建物を取得したことは認められるが、結局のところこの取得を原告に対抗することはできないのであつて、被告の抗弁および本位的反訴請求は失当である。

三、そこで被告の時効取得の主張について判断する。

<証拠>を総合すれば左の事実を認めることができる。

(1) 小杉隆は、昭和二八年一〇月始め頃津村清から金四五万円の借用方の申込を受けたが、その際貸付ける金員の支払を担保するため買戻特約付で本件建物を貸付額と同額で売渡すよう要求したところ、津村もこれに応じたので、同年同月一〇日津村において同年同月三〇日までに元利合わせて金四八万円を返済したときは本件建物を同人に売渡すことを特約したうえ、売買代金名下に金四五万円を交付してこれを買受けた。右契約内容を明確にするためその際家屋売渡証書(乙第一号証)を作成した。

(2) 津村清は、その頃周旋屋を通じ、手付金一五万円を支払い代金六〇万円で本件建物を買受けていたが、残代金の支払に窮し、小杉より金四五万円を借り受ける必要が生じたものであるが、本件建物は津村が前所有者より買受けた当時は未登記であり、その後昭八年一〇月三〇日受付をもつて金子昌成名義の所有権保存登記、同年一一月七日付をもつて津村への移転登記がなされた。右二個の登記は津村より一括して司法書士に委託され了されたものであつて、このことから委託当時津村は前所有者へ残代金の支払を了していたと推認される。更に前記買戻特約付売買の契約証書(乙第一号証そこに記載された作成日付は昭和二八年一〇月一〇日となつている)の物件表示欄には本件建物の家屋番号および床面積の記載がなく、このことは右証書が保存登記前に作成されたものであること、従つて右作成日付に現実に作成されたもので、後日遡つて記入されたものでないことを示している。右二つの事実より小杉が津村へ金員を貸与したのは保存登記がなされるより以前であつて、前認定の如く昭和二八年一〇月一〇日であつたと認められる。

(3) そして津村において買戻期間内に前記約定の元利金四八万円を返済できなかつたので、小杉は昭和二八年一〇月三〇日の経過と共に確定的に本件建物の所有権を取得したが、被告は当時小杉と内縁関係にあつたところから、本件建物を住居兼営業所とするため、その頃小杉から贈与を受けその所有権を取得した。

(4) ところが小杉あるいは被告が津村から本件建物の所有権移転登記を受けないでいるうち、津村が前記の如く服部綾子との間で本件建物の売買予約を締結したうえ、同人に対し前記所有権移転請求権保全仮登記の履行を終えたため、津村は小杉より強く責められ、その結果右被告の取得を確認するため、前記大阪地方法務局今宮出張所昭和二九年三月二二日受付第五、五三五号の被告の所有権移転登記がなされるに至つた。<反証排斥>

被告は右の如く本件建物を所有するに至つたのであるが、被告がこれに入居占有を始めた経過、日時につき考えるに、<証拠>を総合すると、小杉隆は、昭和二三年頃から被告と内縁関係にあつたものであるが、同二八年一〇月始め頃、被告のための住居兼営業所として家屋を捜していたところ前記の如く津村から金四五万円の借用方を申込まれ、この時津村は資力がないと聞いていたので津村が本件建物を買戻すことはあるまいと判断し、これを所有し被告に住まわせる目的で前記の如く買戻付で買取つたものと認められ、そして津村が買戻期間を徒過して本件建物が確定的に小杉の所有となるや、同人はかねてから必要としていたこともあつて直ちにこれを被告に贈与し入居を命じ、被告もこの命に従い直ちに入居したものであり、入居後津村が小杉に対し、同人らの本件建物の居住を確認する目的で家屋賃貸借契約証書(乙第三号証)を作成したことが認められる。したがつて右入居の日時は右経過から考えそれは買戻期間たる昭和二八年一〇月三日を過ぐるや間もなくであり、右家屋賃貸借契約証書の作成日付である昭和二八年一一月八日以前であつたと認められる。

そして被告が現に本件建物を占有していることは当事者間に争いがないから、被告は本件建物の占有を開始した昭和二八年一一月上旬より現在まで一〇年以上に亘り民法第一八六条二項により、その占有を継続したものと推定される。

なお<証拠>によれば被告が本件建物に入居したのは昭和二八年一二月始めであり、しかも津村の制止を聞かず強引に入居した旨の原告の主張に副うものが見受けられるが、右認定に照らすと右日時に被告が入居したとは信じられず右認定を覆すに足りない、またこの点から右証拠は容易に措信し難く被告の占有開始が平穏、公然、善意であつたとの推定を覆すに足りない。

次に原告は被告が本件建物に入居した当初、本件建物を自己所有であると信じるについて過失があつたと主張するが、先に説示したとおり、もともと本件建物は小杉が前所有者の津村から正当に取得し、買戻期間経過後被告に贈与したものであるが、ただ小杉ないし被告への所有権移転登記がなされない前に津村が服部に本件建物を二重譲渡し、同人のため先に仮登記を了したため、小杉および被告の取得が否定されるに至つたという事情にあり、更に前認定の被告の本件建物への入居の経過、日時等の事情を総合的に判断すれば、被告は本件建物を占有するに当り、これが自己の所有であると信ずるについて無過失であつたと推認するのが相当である。

そうすると被告は、遅くとも昭和三八年一一月八日の経過とともに本件建物の所有権を時効によつて取得したものというべく、被告は本訴訟第五回口頭弁論期日において、右取得時効を援用したから、その所有権取得の効果は確定し、これに伴つて原告は本件建物の所有権を喪失したことになる。

四、以上の次第で、本件建物の所有権に基づいて被告に対し、所有権移転登記の抹消並びに本件建物の明渡を求める原告の本訴請求はいずれも失当であるから、棄却を免れないことは明らかである。

そこで、次に被告の予備的反訴請求について考えるに、通常ある不動産について所有権の取得時効が完成した場合に、時効取得がその所有権取得について対抗要件を具備するためには、前所有者に対し所有権移転登記手続を求めるべきものとされるのであるが、不動産登記法の一部を改正する等の法律(昭和三五年法律第一四号)の施行前に紛争が発生し、前記認定のとおり既に原告および被告への二個の所有権移転登記の併存している本件においては右の一般論は適用すべきでなく、むしろ被告名義の右既存の所有権移転登記が、被告による本件建物の時効取得という現在の権利関係に合致していること、反面被告による取得時効の完成により原告名義の所有権移転登記が原因を欠き現在の権利関係と一致しなくなつたことを考慮して、服部綾子名義の所有権移転請求権保全仮登記と原告名義の所有権移転登記をそれぞれ抹消し、被告名義の右所有権移転登記をそのまま残しておくのが、本件建物をめぐる現在の権利関係と登記簿上の表示を一致させる最も簡明かつ適当な方法であると考えられる。

蓋しもし前記一般論を本件においても適用し、被告の時効取得を原因として原告から被告への所有権移転登記を命じたならば、本件建物の登記簿上は被告名義の二個の所有権移転登記が記載されることとなり、しかも昭和二九年三月二二日受付第五、五三五号をもつてなされた既存の登記については、原告が本件建物の所有権を失つたので、これを抹消する方法がないため、被告名義のこの二個の登記が併存することは避けられず、本件建物に関する権利関係を簡明に公示するという登記制度の理想に反する結果を招来するからである。

そして被告の予備的反訴請求のなかには、時効取得を原因とする所有権移転登記に代えて右仮登記と所有権移転登記の抹消登記手続を求める旨の請求も含まれていると解されるので、被告の予備的反訴請求は右の趣旨において正当であり認容すべきである。(野田栄一 中山博泰 岡部崇明)

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